2025.03.26【特集|妙高市で進む大型リゾート開発<後編>】地価上昇に外国人客の増加…「住みにくくなる」地元を離れる人も【新潟】
地元を離れる人も
全国屈指のスノーリゾート・妙高市で進む『大型リゾート開発』。地域活性化への期待が高まる一方、地元ではさまざまな不安の声も広がっています。地域とどう“共存”していくのか。地元の実情を取材しました。
開発の舞台『妙高・杉ノ原スキー場』。
この駐車場を開発のスタートとし、五つ星ホテル2棟のほか商業施設などの建設が予定され、“新たな街”をつくる計画です。
■PCG ケン・チャンCEO
「もう一度、スキーブームを迎えるような地元の人たちがもう一度戻ってきて、住んでみたいとか、新たな人たちが移住してここに住んでここで生活したいとなれば。」
開発を進めるのは、シンガポールに拠点を置く外資系ファンド『ペイシャンス・キャピタル・グループ(PCG』。今後10年で2000億円を投資する大型プロジェクトです。
新たな観光の目玉として地域活性化の期待が高まる一方、地元では〝異変〟も起きています。
妙高高原エリアの中心部に位置する関川地域は、2024年の地価の上昇率が9%と県内トップを記録。リゾート開発によって、土地の需要が高まっています。
すでに多くの外国人客でにぎわう、おとなり長野県の白馬村は地価の上昇率が33%と急騰。地元に住む人にとっては、税金が高くなるなどデメリットがあります。
■白馬村の住民
「固定資産税は今のところそんなに変わらないけど、相続税はちょっと悩んでいますね。ありがたいような、ありがたくないような。」
妙高でも、外国人や県外の事業者が別荘やシェアハウスを目的に空き家を購入するケースが目立ってきています。
2024年、妙高市関山の空き家を購入したオーストラリア在住のハンコックさん一家。オーストラリアのスキーチームに所属していて、メンバーが妙高を訪れた際、いつでも使える別荘としての利用を考えています。バスタブを無くし、3つのシャワールームを新設。キッチンを取り替えるなど“母国仕様”にリノベーションしました。
■ルイス・ハンコックさん
「友人や家族を日本に招待しながら、西洋風のキッチンの快適さも一緒に感じられる。」
■ベン・ハンコックさん
「もっとも重要なことのひとつは、関山が周辺のすべてのスキー場の中心にあるということです。7つ8つのスキーリゾートに30分以内に行けるというのは素晴らしい立地です。オーストラリアはスキーがとても人気で、妙高で家族向けの住宅を探したいという人もたくさんいる。」
地価の上昇率が県内トップだった関川地域でも、1㎡の価格は5800円と現状は決して高くありません。他のリゾート地と比べ〝破格〟だったそうです。
■ジョン・ハンコックさん
「私たちは地元の人たちに対して敬意を払う必要があると理解しています。そして、我々(外国人)が大量に押し寄せて安い不動産を買い占め、地元の人たちを押し出すようなことはしたくありません。私たちは地域のコミュニティーの一員になりたいと思っています。」
この物件のリノベーションを担当した業者によると、大型リゾート開発が明らかになった2年前から問い合わせが急増。土地や空き家の取り合いが起きているといいます。
■家‘sハセガワ 河野良久常務
「もともと(外国人客の対応は)ほぼゼロだったが、それが年間10~15件で増えている。今年だけでも見込みで12~13件はある。」
土地や物件が高騰している実感は-
■家‘sハセガワ 河野良久常務
「実際は高騰しているんでしょうが、ほぼ個人での売買。物件情報として出てこないので、実際どうなのかはわからない。」
開発が計画されている杉ノ原スキー場のお膝元・杉野沢地区では-
鴨井茂人さん。杉野沢地区で創業60年の民宿を営んでいます。この日は、香港からのツアー客が20人ほどで滞在。今シーズン宿泊した外国人の割合は全体の3割ほどで、収入面でメリットも大きいと話します。
その一方で-
■富士美荘 鴨井茂人さん
「やはりロングですよね。最低5日、長ければ3週間。いままで平日に宿泊客を入れるのに苦労していたが、平日黙っていても入る形ができるので助かる。」
外国人客が〝地元の活力〟になっているのか-
■富士美荘 鴨井茂人さん
「あそこの黒い建物がもともとお土産屋だったけど、今はピザ屋。(Q.運営は?)オーストラリア。」
30年前に120件あまりあった杉ノ沢地区の宿は、現在約20件。そのうち5件ほどは、外国人が運営しているといいます。
■富士美荘 鴨井茂人さん
「今のニセコ・白馬のように物価が上がる。なおかつ高級ホテル、高い宿泊料金をもらった経営がメインになったり、リフト券が高くなって。そうなるといくら安い宿に泊まっても、高いリフト券を買ってまで行く人は減ると思うのが普通。」
杉野沢地区でも、家を売却して地元を離れる人が増えているといいます。
■富士美荘 鴨井茂人さん
「今まではそんなことはなかった。田舎の土地や建物が売れると思っていないですからね。それが年に3軒くらいのペースで実際に起きている。うちにも何回か(不動産業者が)来た。今は売る気はないと伝えている。」
さらに、ごみの分別や無断駐車など、外国人観光客による環境への対応も問題視されています。
3月上旬の妙高市赤倉は、街を歩くほとんどが外国人。街頭にはこんな貼り紙もありました。
「ここはトイレではありません。地元をリスペクトして!」
■富士美荘 鴨井茂人さん
「“住みにくくなる”というのが一番(不安)。共存をどうやったらベストなのか。」
先週の妙高市議会。
議員からも、この開発にかかる質問が相次ぎました。
■妙高市 宮澤一照市議
「すべてが高級志向、外国人志向に変わりつつある。住みよさが徐々に排除されていくのではないか。」
■妙高市 堀田孝次市議
「路上駐車や景観など、ある程度決まりがないと妙高の良さが失われ、外国のような景観になりかねません。」
■妙高市 城戸陽二市長
「地域と開発事業者が共存・共栄できるよう、開発への懸念や地域課題の対策を協議している。地域全体が発展するよう、県や県内市町村と連携を図りながら進めたい。」
妙高市では、“乱開発”などを防止するため、新たな条例の制定を目指しています。現在、3000㎡以上の開発の場合は市の許可が必要ですが、これを1000~1500㎡以上とし環境や市民生活に影響が出ないようチェックをよりきめ細やかにする狙いです。
地元や市議会から大きな課題として挙がる〝地域との共生〟。
この点について、ケン・チャンCEOは-
■PCG ケン・チャンCEO
「地元の説明会も我々のチームでしていて、みなさんの意見も聞いて心配なことは説明できるようにしている。活性化して地元の人たちにもプラスになったらベストだと思っている。」
鴨井さんは今後について、こう語ります。
■富士美荘 鴨井茂人さん
「(高級ホテルが)建って1年は続けてみようと思っている。そのあとはダメなら仕方がないかな。我々事業者が事業を継続できるような地域づくりを目指さないといけない。」