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2025.03.11【特集|県北部の医療拠点に何が…】分娩休止直前の病院で新しい命誕生に密着-地域医療の“今”①【新潟】

【特集|県北部の医療拠点に何が…】分娩休止直前の病院で新しい命誕生に密着-地域医療の“今”①【新潟】
分娩休止直前の病院で新しい命誕生に密着
村上市のJA厚生連村上総合病院が、3月で出産の取り扱いを休止します。県北部の医療拠点が、なぜ分娩の休止に追い込まれたのでしょうか。
今回UXは、村上総合病院の医療現場に密着取材しました。病院幹部やスタッフ・利用する地元の人たちにカメラを向けると、地域医療が直面する現実と関わる人たちの様々な思いが見えてきました。

警報級の大雪予報に見舞われた2月4日夜。
静まり返った病棟に1人の男性が入ってきました。行き先は“陣痛室”。まもなく、新たな命が生まれようとしていました。

JA県厚生連・村上総合病院。終戦間際に診療所として発足し、救急や災害・へき地医療も担う県北地域の基幹病院です。医師40人・看護師184人を含む総勢403人が働き、4年前に新築移転したばかりでした。ところが・・・

■杉谷想一院長
「3月中旬をめどに分娩を休止という方針となりますので、ご報告させていただきます。残念なニュースをお伝えしないといけないことは、院長としても残念ではあります。住民のみなさまにはお詫びしたい。」

突然の発表に、地元・村上市長は「医療の大幅な後退」とコメントしました。
今、杉谷想一院長は「悩みぬいた結果だった」と明かします。

■杉谷想一院長
「ここ数年で分娩数が減っているというのは、肌感覚としてあった。分娩を続けられるのかという漠然とした不安は2年前・3年前から。」

病院が採算ラインとみる年間の出産件数は200件。2007年には400件近くありましたが、徐々に減少し新型コロナを境に急減。今年度は70件を切るまで落ち込みました。

一方、産科は『チーム医療』。医師・看護師・助産師らが常に必要とされ、人件費がかかります。

■杉谷想一院長
「高コストで維持している中に分娩数が減ってくるインパクトは、非常に分かりやすくて。地域のためには“必要なインフラ”という考え方でしたけど、すごく衝撃というかインパクトがあったのが・・・。」

JA県厚生連の“経営危機”です。
村上を含む県内11病院を運営するJA県厚生連は2024年7月、今年度の赤字が60億円に拡大する見通しを発表。「このままでは、事業が続けられなくなる」可能性を明らかにしたのです。

続いて発表した『経営改革』。リストラ策が並ぶ中、昨年度の赤字が7億3000万円だった村上も例外ではありませんでした。“億単位”の維持費がかかっていた産科は、出産取り扱いを休止に。4月以降に出産予定だった妊婦は、転院を余儀なくされたのです。


分娩の休止を目前にした病院で、出産に臨む家族がいました。村上市に住む川崎愛美さん一家です。この病院で生むことに、特別な思いがありました。
3年前、村上総合病院で長女の唯愛(ゆあ)ちゃんを出産したときは新型コロナ下。夫の忠則さんは立ち会えませんでした。

■夫・川崎忠則さん
「(3年前は)病室には入れないですし、病院もエレベーターに乗って終わりぐらいな感じでした。今回はしっかり立ち会いして、何か力になれればなと。」

忠則さんも同じ病院で生まれました。

■夫・川崎忠則さん
「私自身も村上病院で生まれているので、(休止は)ちょっと悲しい気持ちになります。」

■妻・愛美さん
「村上で生めるところは村上病院だけだったので、無くなってしまうのは非常に残念。」

自宅から病院まで車で15分。地元で出産できる安心感があるといいます。

■夫・川崎忠則さん
「すぐ行けるところで生みたいというのが一番だった。(村上の休止で)新発田が一番近くなる。でも、片道40分以上はかかるので不安はあります。何かがあったときにすぐ行けない。」

出産間際の健診。

■藤巻尚産婦人科部長
「よく動いて心配ないと思います。また1週間後に来てください。」

診察するのは、藤巻尚産婦人科部長。副院長でもあります。現場の医師として、病院幹部としてこの間、揺れてきました。

■藤巻尚産婦人科部長
「最低年間200(件)ないと持ち出しになってしまって。少なくとも数千万単位で1つの科で赤字の計算になる。これだけの額というのは、ちょっと忍びないところもある。」


採算のほかに、追い打ちをかけたのが『人繰りの問題』です。
近年、医師の派遣元である新潟大学が規模の大きな病院に優先して医師を送るようになったといいます。

■藤巻尚産婦人科部長
「新潟大学病院や新潟市民病院、そういうところは医師の数が増えている。産婦人科の(医師の)数が取られている。そういう形になっています。且つ『働き方改革』が出てきて、当直明けも犠牲になって翌日も働いていたのが、そういう形が許されなくなってきた。」

2024年の春からは、常勤医が藤巻さん1人に。
今は新潟大学の応援を受けながら、1カ月に10日ほど副院長室に泊まっています。

■藤巻尚産婦人科部長
「年々、体力下がっていますし、やっぱり私も60歳超えていますので、かなり負担。」

“産科医の不足”は、この病院だけではありません。
四国や九州、近くでは富山・福島など、全国で産科の休止が相次いでいます。人口減少・医師不足による『分娩空白地帯』が全国に広がりつつあります。


2月4日夕方、愛美さんに陣痛が来ました。忠則さんの運転する車で病院へ。
4時間後、分娩室へ入りました。忠則さんも寄り添います。宿直態勢に入っていた病棟は、分娩室のある一角がにわかに慌ただしくなります。

■助産師
「おなかの張りに敏感になってください。張りがなければ、力を抜きますよ。」

押し寄せる陣痛。愛美さんの状況を見ながら、言葉をかける助産師。忠則さんが励まします。出産も近づき、当直だった派遣医師が中へ。

そして-

■助産師
「午後11時52分。おめでとうございます。素晴らしい頑張りでした、3人とも。お母さんもだけど、赤ちゃんもよく頑張ったね。」

まず、愛美さんのもとへ。体をきれいにした後、改めて対面です。
3012gの女の子。美しく、優しく育ってほしい・・・そんな思いから〝美優(みゆ)〟と名付けました。第1子よりも陣痛がつらかったという愛美さんですが、母子ともに健康でした。

午前1時。長い一日が終わり、忠則さんがホッとした様子で出てきました。

■夫・川崎忠則さん
「よかったです、本当に。感動的で、初めてだったので。妻が頑張ってくれたし、助産師さんも先生もよくしてくれて、非常に感動的な出産に立ち会えた。妻が(赤ちゃんが)最初に出てきたときに『かわいい』と言って、ちょっとうるっと来ました。」

赤ちゃんを取り上げたのは、助産師の佐藤佐智子さんです。立ち会い出産に、いつも思うことがあるといいます。

■佐藤佐智子助産師
「男性も生まれるまでが大変なんだということを目の当たりにすることで、その後、奥さんやお子さんに対する気持ちが変化するだろうなというのを、想像というか期待しているところがあります。」

佐藤さんも特別な思いを抱いていました。村上総合病院で勤めて30年。約800人の赤ちゃんを取り上げてきました。

■佐藤佐智子助産師
「村上病院にとっても、あと何件しかないお産かもしれませんが、私にとっても川崎さんが最後かその前のお産介助になるかもしれないなと思うと、本当に感慨深いものがありました。その中で、すごくいいお産、素敵なお産のお手伝いをさせていただいたと感謝しています。」

村上総合病院での出産は、あと2件です。
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