2024.11.13妻子殺害後、不倫相手に「大好き大好き」元看護師の男に求刑“無期懲役” 検察「極悪非道な事件」男は最終陳述で…【新潟】
元看護師の男に求刑“無期懲役” 妻子殺害後、不倫相手に「大好き大好き」
新潟地裁で開かれている妻子殺害事件の裁判員裁判が11月12日、結審した。
妻と当時1歳の娘を殺害した罪などに問われている元看護師の男。検察は「同情できる点は露ほどもない」「責任に向き合おうとする態度は皆無」などとして、無期懲役を求刑した。
被告は最終陳述で声を詰まらせながら、謝罪の言葉を述べた。
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新潟市南区の元看護師・渡辺健被告(31)。
2021年11月、自宅で妻・春香さん(当時29歳)と長女・純ちゃん(当時1歳)の首をロープで絞め殺害した罪に問われている。
また、事件の7カ月前に飲料水に睡眠薬を混ぜ、春香さんに飲ませながら純ちゃんと車で出かけるのを止めず、交通事故を起こさせて2人を殺害しようとしたとして、殺人未遂の罪に問われていて、
さらに事件の2カ月前にも、当時の勤務先の病院から塩化カリウム10本を無断で持ち出したとして殺人予備・窃盗の罪に問われている。
初公判で渡辺被告は殺人の罪について認めた一方で、殺人未遂と殺人予備の罪については否認した。
検察は動機について「被告人は職場の同僚女性との不倫関係を継続するため、障害となる自己の妻子を排除するため各犯行に及んだ」と指摘していた。
論告────────────────────
◆◆「不倫継続のため合計5回にわたって殺害しようと…」◆◆
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12日の論告、検察は初めに「被告は不倫相手との関係を継続する中で、関係に危機が生じたとき、関係性が高まったとき、あるいはそれらが入り混じった状況のときに2人の殺害を試みていた。」と改めて指摘。
①2021年2月に不倫関係終了の危機に際し、妻・春香さんに睡眠薬を飲ませ意識混濁に陥らせ、②翌3月には関係の再燃に伴い本件殺人未遂事件、③④8・9月には不倫相手との同居生活の終了や関係終了の期限を宣告されたことに伴い、春香さんに劇薬を摂取させ、⑤11月には不倫相手との連日の密会や不満を言われたことで本件殺害事件を起こすに至っていて、
「本件は、被告が不倫関係を継続するため、その障害となる2人を排除しようとして合計5回にわたって殺害を試みるなどした事案」と説明した。
前述の通り、公判では殺人未遂と殺人予備の成立について争っている。
検察は、2021年3月、渡辺被告が妻・春香さんに睡眠薬を飲ませ、交通事故を起こさせた殺人未遂について「運転中、睡眠薬の薬理効果が発生していたことは明らか。その状態は、場合によっては対向車両と正面衝突するなど大事故につながる危険性が高く、2人を死亡させる危険性が十分に高かった。」と指摘。
渡辺被告は本件の1か月前にも春香さんに睡眠薬を飲ませていたことから、睡眠薬摂取時の春香さんの危険な様子を間近で見ていて、さらに本件前日にもインターネットで「運転中に心肺停止」のページを閲覧するなど、「春香さんが睡眠薬の効果によって事故を起こし死亡する危険を、渡辺被告が具体的に想定していたことは明らか」として、渡辺被告には春香さんの運転を制止させる義務があった、と主張した。
これに加え、事件前から『妻殺害 水死に偽装する方法』『建築中 施主 死亡』『溺水 低酸素脳症』など多数の殺害関連の検索をしていたことなどから、「強く執拗な殺意がある」として殺人未遂が成立すると主張した。
2021年9月に勤務先の病院から塩化カリウム10本を盗んだ殺人予備については、検察は「当時、年内期限とされた不倫相手との関係を維持するため、春香さんを排除する動機が高まっていた。」「塩化カリウムを盗んだ翌日に、春香さんに意識消失などの副作用のある劇薬を摂取させた。」などと指摘。
本件の前に『塩化カリウム 致死量』『司法解剖 カリウム』『塩化カリウム製剤 死ぬ』などの検索履歴、前後を通じて『妻がいなくなった 行方不明』『取り調べ 録音』『看護師 実刑 免許』や多種多様な殺害関連の検索・閲覧履歴が残っていたことなどから、「殺意を抱いていたことが強く推認される」として、殺人予備罪が成立すると主張した。
◆◆求刑 “無期懲役” 検察「極悪非道」「同情できる点は露ほどもない」◆◆
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検察は、最終的に2人を殺害するに至った事件全体について「不倫相手との関係の障害を排除する動機で、何の罪もない我が子と育児に奔走する妻を執念深く殺害するなど、身勝手極まりない動機に基づく、極悪非道な事件」と指摘。
そのうえで…
■検察
「同情できる点は露ほどもない。特に、守るべき純ちゃんを自らの欲望のために殺害した点は格段に強い非難に値する。」
「7カ月以上にわたり複数回殺害を企てていて、繰り返し加害する執拗な犯行。事前にロープを購入し、殺害方法や血痕の拭い方なども検索している。絞殺を選び自殺を偽装するなど、責任逃れまで考え、高い計画性がある、犯行時は確実に動かなくなるまで首を絞めるなど、強固な殺意に基づく冷酷残忍な犯行。」
「逮捕後に不倫相手に送った手紙からも、春香さんへの真摯な謝罪の姿勢は微塵も感じられない。遺族は峻烈な処罰感情を抱いている。」
渡辺被告を強く非難。さらに…
■検察
「取り調べでも『娘を殺したのは妻』などと話し、責任逃れの態度も甚だしい。法廷でも都合の悪いところだけ『分からない』『記憶がはっきりしない』など、決め打っているとしか思えない言葉の繰り返し。責任に向き合おうとする態度は皆無で、反省の言葉も口先だけ。」
犯行後の行動も極めて無反省だと指摘。
検察は同種事案と比較し、有期刑が選択されたものに比べ「より重大悪質」として無期懲役を求刑した。
被害者参加人による意見陳述─────────
◆◆遺族は“死刑” 求める◆◆
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続いて被害者参加人による意見陳述が行われた。
遺族の代理人弁護士は、「2人は渡辺被告に悪いことは一切していない。渡辺被告に同情すべき事情は微塵も存在しない。法廷では言い訳がましい受け答えで、うわべだけの謝罪と涙。この先いかに時間が過ぎても、反省することは考えられない。被害者の親族も皆、死刑を望んでいる。」などとして、死刑を求めた。
弁論────────────────────
◆◆弁護人「科すべきは死刑・無期懲役でなくてはならないのか」◆◆
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弁護側は、2021年3月の春香さんの交通事故について、「子育ての疲れに加え、当日には渡辺被告のお金の流用が発覚するなど、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していた。運転中にスマホでLINEの返信もしていたことから、事故の時もスマホの操作でふらついていたとも考えられ、睡眠薬の効果で事故に至ったとは断定できない。」などと主張。
また、「110番通報の話しぶりからも、睡眠薬の効果はほとんど出ていなかったと思われ、事故の前も一定程度車のコントロールができていた。被告は春香さんの運転を止めるべきだったかもしれないが、それが春香さんを殺害しようとしたことと同価値と評価されるほどではない。」としたうえで、
「渡辺被告は、春香さんに睡眠薬の効果が生じているのを認識しながら、あえて車の運転を止めなかった、ということではない」として殺意を否定し、殺人未遂は成立しないと主張した。
2021年9月に勤務先の病院から塩化カリウム10本を盗んだことについては、渡辺被告の自宅に、塩化カリウムを静脈注射するために必要な器具が揃っていなかったことから、「本当に注射して殺そうとしていたのであれば、器具を持ち帰らなかったというのは不自然極まりない。」と主張。
渡辺被告が塩化カリウムを持ち出した目的については、「妻との生活における精神的安定を図るためで、単なるお守りのようなもの。私たちも、合格祈願や安産祈願で手元にお守りを置いておくことがあるが、渡辺被告もそのようにして塩化カリウムを持っていたと考えられる。」と説明し、「窃盗罪は成立するが、殺人予備罪は成立しない」と主張した。
弁護人は最後に量刑ついて…
■弁護人
「結果が重大であるのは言うまでもなく、その責任を取らなければならないことも言うまでもない。ただ、本件ではとりわけ殺害方法が残虐・執拗であるとまでは評価できず、あえて死ぬまでの苦しみが増すような方法をとったわけでもない。」
「2人を殺害した動機に同情するものはないが、保険金など利欲目的での殺人とは異なり、純ちゃんの殺害もその場でとっさに恐怖を感じたことによる突発的なものだった。犯行後の自殺の偽装工作についても、用意周到とは対極のずさんな行為でだった。」
「今の段階でも被告の反省は不十分に映るかもしれない。しかし、逮捕された当時に比べれば、少しずつ反省を深めていっている。これからその反省をさらに深め、贖罪の気持ちを持ち続けさせることが必要。そのうえで科すべきは死刑・無期懲役でなくてはならないのか。」
このように主張し、有期刑の選択を求めた。
最終陳述──────────────────
◆◆声詰まらせ…被告が最後の謝罪◆◆
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新潟地裁の小林謙介裁判長に、最後に言いたいことはないか、と問われた渡辺被告。
声を詰まらせながら、こう答えた。
■渡辺被告
「これからもずっと妻と娘に謝り続けていきたいです。妻と娘が自分に向けてくれた家族としての想いなどをこの先もずっと持って、私はそれに応えられなかった、その思いをずっと持って、自分のしたことに一生向き合って、妻と娘にしてあげられなったこと、自らの後悔と自分のやった数々の過ちを一生振り返り、考え、見つめながら、ずっとお詫びし続けたいと思います。本当に申し訳ありませんでした。」
裁判員らの議論を経て、判決は11月22日に言い渡される。