2025.11.13【特集|柏崎刈羽原発】専門家に聞く「知事への責任転嫁以外の何物でもない」再稼働最後の関門「地元の同意」とは【新潟】
宮城県・女川原発などは、県議会が賛成請願を採択→知事に同意を促す
14日に花角知事が柏崎刈羽原発を視察し、長岡市などの自治体トップと会談します。再稼働へ最後の要件となっている「地元の同意」へ向け、判断材料としたい考えです。
なぜ再稼働に「地元の同意」が必要で、なぜキーマンが知事なのか。
『地元』『地域』とは、具体的にどこを指すのか。
大詰めを迎えている今、専門家の解説をもとにひも解きます。
再稼働を目指す東京電力と政府。両者はある言葉を繰り返してきました。
■東京電力HD 小早川智明社長
「柏崎刈羽原子力発電所は、地域に根差し、地域に信頼される発電事業者になれるよう、今後とも地域と共に歩む企業でありたい。」
■高市早苗総理
「安全性の確保と地域の理解を大前提に対応を進める。」
『地域』。
政府や東京電力が繰り返すのは、再稼働に「地元の同意」が必要との立場に立つからです。
しかし、じつは再稼働に「地元の同意」が必要という法的根拠はありません。政府は国のエネルギー政策の基本方針である「エネルギー基本計画」に、再稼働へ向けて「立地自治体等関係者の理解と協力」を明記していることから、2024年3月 花角知事に再稼働の理解を要請しました。東京電力も「法的な根拠はない」としつつ、政府と同じ考えに過ぎません。
では、「地元の同意」が最大の焦点になっていることをどう考えればいいのでしょうか。
この問題に詳しい九州大学大学院の出水薫教授は、ある取り決めに着目しています。
■九州大学大学院 出水薫教授
「(各地の原発で)電力事業者と自治体との間で『安全協定』というものが一般的に結ばれている。特段 法的な義務などはないが、任意の取り決めとして結んできた。」
柏崎刈羽の安全協定は、県と柏崎市・刈羽村と東京電力との間で40年以上前に結ばれました。ここでの『地元』は、県と柏崎市・刈羽村の3者を指します。原発施設を変更する場合、3者の事前了解が必要としますが、〝再稼働〟の言葉はありません。
ただ、出水教授は安全協定の考え方が再稼働議論でも基盤になっていると指摘します。
■九州大学大学院 出水薫教授
「安全協定上の同意が、あたかも原発を再稼働するための最後の決定のように見えてしまうところが、ある種の錯覚を生み出していると言える。」
出水教授は「『地元自治体による同意制』と呼ぶべき『慣習上の制度』」だと言います。
法律に基づいて政府が原発再稼働を許可する一方、最後のハードルである「地元の同意」は明文化された規定が無いという〝ねじれ〟。
地元3者の対応は割れました。
柏崎市・刈羽村は早々に再稼働を容認しましたが、県は-
■花角英世知事
「丁寧に進めているつもり。県民の気持ちは割れている。」
県を代表する立場として、こう述べた知事。公聴会・県民意識調査などを次々と実施してきました。
■九州大学大学院 出水薫教授
「原発の直接の恩恵を受けない市町村・住民を説得・納得してもらう必要があるところの〝板挟み〟になっている構図がある。最後に同意の決定権限者であるかのようになってしまう知事は、非常に苦境に陥るということ。」
再稼働しても柏崎刈羽で作られた電気が県民には届かないこと、そして福島第一原発の事故後 初めて東京電力が再稼働する原発になることから、県民にはさまざまな感情が交錯しています。県民全体の意向を把握したいとする知事側の手続きが長引く要因でもあります。
そんな知事に噛みついたのが、柏崎市でした。
■柏崎市 桜井雅浩市長
「〝地元中の地元〟として、56年間 賛成も反対も激しい議論を積み重ねてきた。『地元』とは何なんですか。」
『地元』の定義を示すよう国と県に求めたのです。
しかし、明確な回答はありませんでした。
■柏崎市 桜井雅浩市長
「地元というのは『柏崎市・刈羽村』。(原発)プラントが存在する、地面についている柏崎市・刈羽村というのが『地元』との認識。」
揺れ動く『地元』の定義。県民投票条例案を審議した臨時県議会でも議論になりました。参考人として出席した新潟大学の今本啓介教授が「県北の県民が再稼働を自分事として考えて投票できるのか」と発言したのです。
住民団体は反論しました。
■村上市の女性
「(原発から)遠いから軽い、近いから重い、そんなことはない。県民をバラバラにするような話をしている。」
原発30km圏内の自治体議員からも問題提起が-
安全協定に再稼働時の「事前了解権」を組み込むよう県に求めました。県内の自治体トップからは知事に対し、主に二つの意見が出ました。
■新発田市 二階堂馨市長
「(知事が)どのような決断をしても、私は花角知事を信頼しているし応援する。」
知事に任せるとの意見。
■新潟市 中原八一市長
「豊富な知識を持つ県議会が意思表示をしていただきたい。」
県議会で議論を求めるとの意見。
その県議会。知事を支える最大会派の自民党が決議案を提出しました。
■自民党 高見美加県議
「知事が出した結論について、同じく県民を代表する立場にある県議会として、真摯(しんし)に向き合い、熟議の上、県会の意思を示すことを決意する。」
ただ、結論を出すのはあくまで知事と強調しました。
■自民党県連 高橋直揮政調会長
「我々は決して矢面に立つことはない。『信を問う』と言い続けているのは知事。知事がこっちにボール(再稼働判断)を投げるのであれば、こっちは受けますよという中身なので、そこは誤解しないでほしい。投げたいなら受けるよ。」
宮城県の女川原発など他県では県議会が賛成の請願を採択し、知事に同意を促すケースが主流。新潟とは逆です。
■九州大学大学院 出水薫教授
「非常に多くの人々が多様な生活をしている中で、その意見を吸い上げて すり合わせていくというもっともメインな仕事ができるのは、知事ではなくて議会。その議会がそもそも話し合ったり、意見をすり合わせることをはなから放棄しているとしか言いようがない。〝知事への責任転嫁〟以外の何物でもない。」
この間、東京電力や国は「地元に寄り添う」として1000億円規模の基金や避難路の整備などを約束しましたが、県民との溝は深いままです。
11月12日、知事は柏崎市・刈羽村との3者会談に初めて臨みました。
■柏崎市 桜井雅浩市長
「『早く決断いただきたい』と申し上げた。」
■刈羽村 品田宏夫村長
「政治家・花角さんが政治決断をすることです(と言った)。」
迫られた知事は-
■花角英世知事
「国から(再稼働の)理解要請を受けているのは県と柏崎市と刈羽村なので、何らかの返事をしないといけない。(柏崎市・刈羽村は)立地自治体なので、重要な要素だと思う。」
■九州大学大学院 出水薫教授
「知事が矢面に立ってるかのように見えるが、それはあくまでも国や電力事業者がある意味で〝責任をなすりつけている〟と言うと、あまりにも積極的かもしれないが・・・。」
と指摘した上で、問いかけます。
■九州大学大学院 出水薫教授
「私たち全体が国のあり方、原発を運営している制度の全体のあり方としてきちんと議論しておくべき点だろう。」
原発の『地元』とはどこなのか。
再稼働した後、誰が最終的に責任を負うのか。
知事の判断が大詰めに迫った今、問われています。