2025.11.21【特集|検証】柏崎刈羽原発の再稼働幻の〝出直し知事選〟政府の極秘シナリオ・・・「信を問う」7年の軌跡【新潟】
花角英世知事
再稼働を容認した花角知事。7年前の選挙で訴えた「県民の信を問う」という言葉は再稼働判断が迫るにつれて重さを増し、知事の肩にのしかかりました。
知事はなぜ「信を問う」と言ったのか。
「信を問う」場所はなぜ〝県議会〟になったのか。
関係者の証言をもとに検証しました。
7年前の知事選-
県政奪還を目指す自民党が白羽の矢を立てたのは、国土交通省の官僚だった花角さんでした。
■花角英世知事
「この県政を安定させて我々の生活が良くなるように。」
米山知前事が女性問題で辞任。急きょ臨んだ選挙でした。無党派を掲げる一方、自民党がバックアップ。野党系とぶつかりました。
争点は、柏崎刈羽原発の〝再稼働〟でした。
■花角英世候補(当時)
「原発については、おそらくここに集まっている皆さんと同様 不安を持っている。できれば無い方がいいと思っている。しかし、現実には存在している。これをどうするか。リーダーとして、船長として答えを出し、それを皆さんの信を問う。それも考えている。その覚悟がある。」
「信を問う」この表現が固まったのは告示直前でした。
■花角英世候補(当時)
「職を賭して信を問う。そういうプロセスを経たい。経る覚悟がある。」
■篠田昭新潟市長(当時)
「職を賭して県民に信を問うんだと。これ以上重い言葉はない。」
当時新潟市長だった篠田さんは、この言葉は花角応援団の市長有志の間で持ち上がったと明かします。
■篠田昭新潟市長(当時)
「告示の数日前だったと思うが(別の市長が)私のところへ電話して『このままでは非常に厳しい』と『原発へのスタンスをもう少し明確にすべきだ。重大決断をするときは〝県民に信を問う〟のでどうだろう』と。『あなたからも事前に言っといてくれ』と。(花角さんは)どう判断するかなと思ったが、彼は『わかりました。信を問うということでいきます』と。」
相手候補は、再稼働反対を訴えていました。
■篠田昭新潟市長(当時)
「これは本当に生半可なことでは花角知事を誕生させられないという危機感は、こちらもすごいものがあったことを覚えている。」
投票日当日、地元紙に掲載された広告。「県民に信を問う」と打ち出しました。
■篠田昭新潟市長(当時)
「あの花角選挙に携わった人間はここが最大のポイントだと。(Q.手法はどんなイメージだった?)本当に一気に選挙だったのであまり深くは考えなかったが、県民投票あるいは知事選。それが一番わかりやすいんだろうと突き詰めていく状況ではなかった。それは花角さんがしっかり考えること。」
勝利はしましたが、僅差でした。
初の県議会-
信を問う手法は明らかにしませんでした。
■花角英世知事
「『県民に信を問う』ことも含め、県民の皆さんの意思を確認するプロセスが必要。」
次の知事選は圧勝。
当選後の会見、ここでも明言を避けました。
■花角英世知事
「知事選挙も当然ひとつの形だと思うが。」
ただ、知事は知事選を想定していたと複数の自民党関係者は証言します。
2023年暮れ、新潟市内で開かれた自民党との忘年会。お開きの後、知事は去り際にこう言いました。
■花角英世知事
「来年はよろしくお願いします。」
この発言を聞いた関係者は「出直し知事選のことだ」と直感したと振り返ります。
2024年の年明け、政府は動き始めました。3月、資源エネルギー庁の村瀬長官が来県。再稼働に理解を求めましたが、知事は即答を避けました。
■花角英世知事
「県民がどういう風にこの問題を受け止めていくか、それを丁寧に見極めていきたい。」
前後して県内に後援会を設立。自民党内には『知事選への備え』との見方が支配的でした。県の幹部もこの時期、『出直し知事選』を模索していたと証言します。単独で選挙を実施する場合は8億円以上かかることなどから、衆院選との『同日選挙』を探っていたといいます。
ただ、仮に米山前知事が出馬して、再稼働が焦点になれば勝利が危ういとの危機感が根強く、結局立ち消えになりました。
一方、政府の働きかけは周到でした。
今年に入り、資源エネルギー庁は県に出向経験がある官僚を原発担当に据えました。さらに県議会、とくに自民党と接触。〝読後破棄〟と念を押した文書を渡し、再稼働に向けたシナリオを複数提示していました。
そのシナリオのひとつが、経済団体が出した再稼働請願を県議会が採択する案。
しかし、これは県民を置き去りにするとの懸念から不発に。関係者によると、政府が示したシナリオに「知事選」という選択肢はありませんでした。
■政権幹部(当時)
「怖いのは花角さんの暴発なんだよ。知事選に打って出て負けたら、再稼働は不可能になる。それは避けたい。」
そんな中、県と政府にとって想定外だったのが-
県民投票条例案の直接請求。住民団体の呼びかけに14万筆あまりの署名が集まりました。
■花角英世知事
「まだ出てきたばっかりなので頭を整理しなければ。」
4月の臨時県議会-
知事は県民投票に慎重な意見を表明。野党から「信を問う」発言を質されましたが・・・。
■花角英世知事
「様々な手法が考えられるが、現段階で決めているものはない。」
自民党などの反対で条例案は〝否決〟。
議場を後にする知事の声は上ずっていました。
■花角英世知事
「議論は深まったと思う(Q.とくにどの点が?)とくにありません。『信を問う』という言葉は、皆さん想像できるものがありますよね。何度も申し上げている。(Q.信を問う方法を言わないから条例案が出た)信を問う方法は、皆さん想像できるでしょう。日本語として。(Q.言わないのはなぜ?選挙と)まだいま決めていない。最適な方法・適切な方法が決められていないから、最終的に。」
このころ、政府関係者はある発言に注目しました。
臨時県議会直前の会見で-
■花角英世知事
「選挙が通例だと思いますが、信任・不信任の諮(はか)り方はいろいろある。議会の信任・不信任も。」
知事自ら口にした「議会の信任・不信任」という言葉。任期が1年を切る中、情勢は一気に傾きます。
複数の自治体トップからも-
■新潟市 中原八一市長
「県議会が意思表示をしていただきたい。原発だけを争点にした選挙を知事が行う必要はない。」
■花角英世知事
「少なくとも〝県議会〟という言葉は多くの首長から伺った。」
政府と東京電力はカードを切りました。
■石破茂総理(当時)
「東京電力は立地地域の企業への支援や防災対策など、地域への貢献をさらに充実してください。」
■東京電力HD 小早川智明社長
「〝地域経済の活性化〟に貢献してまいりたい。」
東京電力は、1000億円規模の基金を創設、政府は避難路の整備など再稼働による経済的メリットを提示。外堀は埋まっていきました。
県民投票は否定し、残り任期から出直し知事選が現実的ではなくなった結果、残された選択肢は・・・。
県議会-
自民党は「多くの県民が知事の動向を注視している」と指摘し、知事の結論を尊重する決議案を9月議会に提出。賛成多数で〝可決〟。知事はすぐさま応じました。
■花角英世知事
「決議されたので、しっかり踏まえて考えていきたい。」
政府と県議会との間に立ってきた、この人は-
◆自民党県連 高橋直揮政調会長
「直接 民主主義でやるのはおかしいのではないか。我々議会があるのであれば〝議会に信を問う〟というボールを投げてもらった上で、議論・熟議を尽くしたうえで結論を出すべきではないか。」
しかし、念を押しました。
◆自民党県連 高橋直揮政調会長
「我々は決して矢面に立つことはない。だって『信を問う』と言い続けてきたのは知事ですから。」
■篠田昭新潟市長(当時)
「いまの感じだと知事個人、知事一人への責任が重くなっている。みんなで考えてみんなで決めていこうという枠組みが、私はまだ見えてない。」
〝信を問う〟
その言葉は再稼働をめぐる動きの中で重みを増してきました。選挙戦術だったのか。本心だったのか。残るは県議会での議論。
7年にわたる言葉の重さが、まもなく試されようとしています。