2025.12.04【特集】〝ものづくりの町・燕〟の老舗洋食器メーカー 次の100年へ新たな挑戦【新潟】
100年以上にわたり金属洋食器を製造する『燕物産』
燕市で100年以上にわたり金属洋食器を製造するメーカーが、長年愛されてきた商品の改良に取り組んでいます。次の100年を見据えた〝ものづくりの現場〟を取材しました。
燕市の『燕物産』。
明治時代の1911年から金属洋食器の製造を続ける老舗メーカーです。
職人の手によって仕上げられる商品の数々は高級感と温かみを兼ね備え、多くの飲食店やホテルなどで使用されています。燕物産がいま取り組んでいるのが、新たな洋食器の開発です。
■燕物産 捧開維専務
「看板商品の『月桂樹』が誕生して100周年を迎えた。『月桂樹』に続く100年愛される、後世に残していけるような誇りのある商品を作りたいということで、このプロジェクトを始めた。」
専務の捧開維さん(34)は5年前、家業を継ぐために銀行を退職し、燕市に戻りました。看板商品の『月桂樹』は、ヨーロッパの伝統を忠実に盛り込んだ最高級品シリーズ。
長く愛される商品の改良を決断した背景には、新型ウイルス禍がありました。
■燕物産 捧開維専務
「雇用調整を使って週に2~3日休んでいるところもあった。職人の出勤も工程制にして、ともかく耐え忍ぶ時間が多く流れていた。」
得意先の飲食店やホテルなどから発注が減り、売り上げは3割減少しました。対策を考えるなかで、職人の技術に目を付けました。
■燕物産 捧開維専務
「スプーン1本つくるのに、こんなにも(職人の)手間や思いが込められていることに気づかなかった。それがお客様にも届いていなかったり、当たり前すぎて職人の誇りになっていないことに気づいた。」
職人の知識や経験を商品に落とし込むことで誕生した新商品の第1弾-
『Ten(テン)』シリーズです。
デザインを一新し、インバウンドを意識して着物の柄を施したほか、高度な磨きの技術で色のグラデーションをつけました。価格は5点セットで2万6400円。
■燕物産 捧開維専務
「ギフトやインバウンド需要を見越して開発したが、海外から来た旅行客に多くお買い求めいただいた。」
高価格帯の商品は、職人が1本ずつ丁寧に磨きます。光沢の違いは一目瞭然です。
■研磨担当の職人
「模様が細かくあるが、落とさないように光沢だけを出すのがどうしても難しい。」
■燕物産 捧開維専務
「(彼は)手磨きの仕事を7~8年くらいやり続けて、ようやく『月桂樹』や『Ten』を磨き上げられるようになった。」
検品もベテランが担当。小さな傷も見逃しません。
■燕物産 捧開維専務
「手磨きの工程に戻り、傷を落としてもう一度 研磨して出荷される。」
新商品の第2弾は、使いやすさを追求した『Stilla(ステラ)』シリーズ。
業務用として普及している『Lilac(ライラック)』を改良し、ヘッドの幅を狭くしました。
■燕物産 捧開維専務
「海外の人に比べて日本人は口が小さい傾向なので、横幅が小さくても食べやすいヘッドのサイズになっている。Stillaは奥に頂点があり、(口から)抜いたときの滑らかさや口当たりが格段に向上している。」
ハンドルもアーチ状にして軽量化するなど細部にこだわった結果、グッドデザイン賞を受賞しました。
顧客の新規開拓を課題と感じた捧さん。東京の商業施設などで短期間のポップアップストアを開いたところ、人気アーティスト『YOASOBI』の関係者の目にとまり、燕物産とコラボした〝カレースプーン〟が誕生しました。
■燕物産 捧開維専務
「先代は工場を開かず、できるだけ情報は出さないよう技術の流出を心配していた。社長に『それでは良いものも伝わらないし、人も集まらない』と説得して活動している。」
100年愛される商品を目指して―
〝ものづくりの町・燕〟を盛り上げていきたいと考えています。
■燕物産 捧開維専務
「大量生産物は中国やベトナムなど海外の力が強くなっているし、日本のカトラリー(洋食器)がどうなっていくか業界全体で考えていかなければいけない。」