2025.09.19【特集】〝医師をどう育てるか〟地域医療の現場に挑む研修医に密着:村上総合病院【新潟】
舞台は村上市の『村上総合病院』
新潟で過ごした研修医の夏を追う特集の第2弾。
舞台は、村上市の『村上総合病院』です。山形県境と接し『北の砦』と言われるこの病院で、研修医たちは何を見つめたのでしょうか。
8月末、村上市の村上総合病院。一室が緊張感に包まれていました。
■志村医師
「救急車、何分後ですか?」
■救命士
「10分後、かぶりそうです。」
研修医の志村優至さん。内科研修の予定でしたが急きょ救急に回りました。このとき、ドクターヘリと救急車が同時に向かっていました。
■村上総合病院 志村優至さん
「発熱と心不全・肺炎疑いで精査します。」
男性は粟島から運ばれてきました。普段、医師はいません。志村さんは2週間研修で滞在したばかりでした。
現在、村上総合病院では6人の研修医が学んでいます。小児科にも姿がありました。杉本凌太郎さんです。
■村上総合病院 杉本凌太郎さん
「元気?」
2カ月にわたる小児科研修も、残りわずか。
■村上総合病院 杉本凌太郎さん
「せきとか鼻水とか出てきて熱はなかった?鼻水はサラサラとか?緑っぽいとか?」
質問を重ねる杉本さんを見守るのは、塚野真也さんです。診察後、振り返ります。
■村上総合病院 塚野真也医師
「良好だよね、元気。笑顔も見られるし、まず大丈夫。今のところは気管支炎か、あとは鼻水が出ている。」
新潟出身の塚野さんは、現場一筋40年。小児科に身を置いてきました。
■村上総合病院 塚野真也医師
「元気になるとみんなニコニコして退院していくし、小児科医は元気に退院していくのが本当にうれしくてやっている。」
3月に新潟市民病院で定年を迎えた塚野さん。4月から、常勤医の退職を受け小児科存続の危機に陥っていた村上総合病院にやってきました。現在66歳。意識していることがあります。
■村上総合病院 塚野真也医師
「もう年も年なので、次世代を育てるというのは大事。」
医学部卒業後の初期研修は2年間。
1年目を地元・大阪で研修した杉本さん。村上に来て違いを感じています。
■村上総合病院 杉本凌太郎さん
「ここだとそこまで重症の子はそんなに来ないというのもあって、むしろ外来の場で何回も来てもらって地域ごと見ていく。」
杉本さんもこの夏、粟島で2週間研修しました。
■村上総合病院 杉本凌太郎さん
「血液検査ができない診療所なので、本当にまさに診る。体を診て、音を聞いて、いつからその症状があったのか、普段の暮らしがどうだったのか、情報をどれだけ的確に聞けるのか、会話能力もいるとすごく感じた。」
診療が一段落したある日の夕方-
研修医が集まりました。杉谷想一院長から粟島研修のレポートが課されていました。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「じつに楽しかった。これを見ていて君らの粟島での生活がよく分かった。面白いことを経験しているのに共有していないのはもったいない。」
研修医の指導役、12年目の宇賀村大亮さん。
■村上総合病院 宇賀村大亮医師
「離島の一番の医療で困ること、大変なことってモノ(機材など)がない。そこで今まで培ってきた現場対応力を発揮してもらいたい。」
レポートに記された島での出来事。杉谷院長は「宝の山だ」と言いました。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「離島の救急マニュアルを作ったら、日本初で発信できるかもしれない。都会のハイボリューム(大病院)にいれば、おそらくムカデに刺されない。」
■村上総合病院 杉本凌太郎さん
「他の離島で活用してもらうのか、粟島へのフィードバック的に使うのか。」
■村上総合病院 杉谷想一院長
「まずは地元のためにならないと、発信しても意味がない。」
話題は、来年度の研修医募集へ。志村さんは見学者を城下町に連れていきたいと言いました。
■村上総合病院 志村優至さん
「実際、村上の暮らしがあって村上の医療が成り立っている。」
村上の魅力をどう伝えるか。
そこへ-
■村上総合病院 杉谷想一院長
「山に行ってほしいと思っていて、三面ダムとか。あの辺りで起きた救急事案ってどうしているか分かる?何が一番困るかというと、あそこ除雪が入らない。担架を担いで猛吹雪のなか、ホワイトアウトになりそうになりながら自宅に行って乗せて。手作業だよ。」
離島から山形県境まで、広大な範囲をカバーする村上総合病院。
杉谷院長は、「粟島を特別にしてほしくない」と言いました。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「同じ思いをして(山形県境の)山北から平地を近くの人に乗せてもらって、軽自動車で来ている人もいる。足がなくて。〝医療のハードルを下げる〟のが『地域医療』かなって思っている。」
〝医師をどう育てるか〟
杉谷院長にとって大きなテーマです。今年の6人全員が県外出身。1年目を県外の大病院で、2年目を新潟で研修する『たすき掛け研修』制度でやって来ました。研修医確保のため、県が独自に設けた制度です。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「(新潟が)おまけになってしまうリスクもある。正直言って、うちの研修は最初から全然あまり期待されていなくて、何か学ぼうという気がない子も(過去には)いました。」
自身は神奈川県出身。新潟大学を卒業後、東京の国立がん研究センターに進み、現場から離れましたが新潟に戻ってきました。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「ブランド力で勝負する医者ではなくて、何となく新潟で学生時代に研修したおじいちゃん・おばあちゃんとの密な関係が頭をよぎった。」
村上総合病院は、3月で出産取り扱いを休止。
4月からはベッド数を減らして訪問診療を始めるなど過疎化の中、役割の見直しを図っています。どう研修医にアピールするか、自問してきました。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「うちの病院も都会の大病院に負けないような良い機械があって、人材もいて、スタッフもそろうなど多々あるんですけど、それを研修医に伝えてそれが魅力だから『新潟に研修に来てください』というのは無理、あきらめた。あきらめたというか、そもそも発想が間違っていた。」
都会の病院と違い、医療が細分化されていない強み。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「うちに入ってきてから退院するまで、最初から最後まで全部見せてあげられる。都会の病院の研修とうちの病院の研修は、じつは全く内容が違うんじゃないかって。」
2026年春から始まる専門研修。6人全員が県外の病院へ巣立ちます。
研修医の県外流出は、県全体が抱える課題です。それでも杉谷院長は6人に期待を寄せています。
■村上総合病院 杉谷想一院長
「すごく僕らの期待以上にどんどん吸収してくれますし、僕らが日ごろ当たり前だと思っているところに対して、いろんな面白いヒントをくれるんですよね。」
村上での生活も、残り半年-
志村さん・杉本さんともに、再び粟島を訪れたいと申し出ました。
■村上総合病院 杉本凌太郎さん
「次行ったときに、あの人どうしているかなみたいな。会えたら様子見に行きたいなみたいな感じになってきて。」
■村上総合病院 志村優至さん
「どうしても医師と患者という関わり方で出会っちゃうんですけど、医師・患者の関係だけじゃない部分というのが、人と人の関係っていう部分が常にあるといいかなと。」