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2025.09.18【特集】“無医村”粟島へ「患者にとって何がいいか」地域医療に向き合う研修医の夏:村上総合病院から派遣【新潟】

【特集】“無医村”粟島へ「患者にとって何がいいか」地域医療に向き合う研修医の夏:村上総合病院から派遣【新潟】
村上総合病院から来た研修医:志村優至さん
日本海に浮かぶ離島『粟島』。医師がいないこの島に今年の夏、研修医が滞在しました。島の暮らしから何を見つめたのでしょうか。地域医療に向き合う“若者たちの夏”を追いました。

村上市の岩船港からフェリーで1時間半。粟島が見えてきました。粟島浦村には、300人あまりが暮らしています。集落の端にある診療所。ここには普段、医師がいません。

7月末の昼下がり―
島民が健康診断の結果を聞きに来ていました。診察室には、1台のテレビ。診療にあたるのは、35km離れた村上総合病院の内科医です。

■村上総合病院 志村優至さん
「お変わりありませんか?」
■患者
「暑いけどね。変わりありません。」

1人の男性が見つめていました。
志村優至さん。村上総合病院から来た研修医です。

■患者
「先生、(血圧が)100ないときあるけど、いいの?」
■村上総合病院 志村優至さん
「ちょっと数字だけ見たら低いですけど、それでフラフラしたことはない?」

志村さんは愛知県出身。高校卒業後、東京の大学に進みましたが、医学部に入りなおしました。34歳。地域で患者に寄り添う〝総合診療医〟を目指しています。

■村上総合病院 志村優至さん
「福井県にあった在宅専門の診療所に行ったときに、そこのスタッフたちが職種にとらわれず自分の強みを生かして働いていた。地域にいて、ゆりかごから墓場までの長い期間を関わっていくところがしたいなと。」

志村さんが2週間前にやってきた粟島は、60年以上も前に医師が離れました。夏場は観光客でにぎわいますが、島民にとって2000年に始まったテレビ診療が『命綱』です。

診療所には、看護師が3人います。猪股彩さんは、東京の大学病院をやめて移住してきました。

■看護師 猪股彩さん
「(東京は)業務に追われているのでモヤモヤしていた時期だった。自分にとっては全員が、お父さん・お母さん・おじいちゃん・おばあちゃん。子どもたちは自分にとっての妹・弟。一生懸命関われるなと思って。こういう看護がしたいと向こうで思っていたので、それが今かなっている。」

暮らしてみて、気づいたことがあります。

■看護師 猪股彩さん
「なかなか医者にかかれないのはみんな自覚しているし、何か覚悟をもって生きているというのはすごく感じる。」

その分、看護師としての役割は増したといいます。
一方の志村さんは、まだ考えていました。

■村上総合病院 志村優至さん
「必ずしも研修医がいなくてもいいというなかで、行ったタイミングでは僕らがいるからこそできるということもあるので、自分の中で感じたことを整理しきれていない。」

村上総合病院が研修医の派遣を始めたのは、2024年から。発案者は杉谷想一院長です。自身も島民と向き合ってきました。

■村上総合病院 杉谷想一院長
「いまだに緊張する。父ちゃんの話などされると、当然 自分の旦那が誰で子どもが誰で、家族関係も自分の職業も、下手すると住んでいる場所まで知っていると思われているので、そのプレッシャーはすごい。」

今年送り出した研修医は6人。みな、2年間の初期研修のうち1年目を県外の大病院で研修してきました。

この春、高齢者が多い村上へ来るにあたり伝えたことがあります。

■村上総合病院 杉谷想一院長
「お年寄りをリスペクトして欲しいっていう話はした。大きい病院に来て『おじいさん、おばあさん』ではなくて、ちゃんと名前のある患者さんで、しかもこの方は若いころ何をしていて、今どんな生活をしていてどんな家族がいると知らないと、なかなかリスペクトできない。」


■患者
「ムカデにやられた、ムカデに刺された。」
■村上総合病院 杉谷想一院長
「ムカデはすぐお湯につけて。なぜでしょう?冷やさない理由は何でしょう?」
■研修医
「たんぱくを分解したいからじゃないですか。」
■村上総合病院 杉谷想一院長
「正解。さすがですね。優秀ですね。お見事。」

愛知県の大病院からやってきた志村さん。粟島は〝別世界〟でした。高齢者が4割を超え、コンビニはありません。

でも、都会の慌ただしさとは無縁。人同士の強い結びつきがあります。差し入れで食事にも困りません。

■村上総合病院 志村優至さん
「島民のような感覚で受け入れてくださっている。実際に自分たちもその中で生活しながら過ごす中で、一緒に必要なときは医療もするし、2週間過ごすことができている。」


翌日-
粟島研修も残り2日。午後からある場所に向かいました。島の反対側にある釜谷(かまや)集落です。おしゃべりタイムにお邪魔しました。

■村上総合病院 志村優至さん
「私は、村上総合病院の研修医です。」
■患者
「村上市役所?」

世話人を務める本保次世さん。

■本保次世さん
「おかげさまで命拾いしました。」

本保さんの母親は2日前に自宅で倒れ、本土へ搬送されました。自宅に駆けつけたのが志村さんでした。

■本保次世さん
「ドクターヘリにお世話になった。志村先生にお世話になった。脳こうそくだから時間勝負。」

■村上総合病院 志村優至さん
「診察上はそう(脳こうそく)だなと。その時点でヘリを出してもらった。」

緊急時に本土への搬送手段はありますが、不安は尽きないとかつて身内を亡くした女性は明かしました。

■かつて身内を亡くした女性
「あちこちあちこち電話かけて。うちで亡くなったから。」

■本保次世さん
「何をどう説明したらいいのか、的確な説明ってすごく難しい。家族は焦っているし。」

定期フェリーも便数が限られ、冬場は天候に左右されます。

■本保次世さん
「日帰りできないことによる経済的な負担がまず一番大きい。」

たった2週間の滞在でも、研修医は頼りになっていました。

■本保次世さん
「宿泊を伴う、全部自己負担になる。いるってだけでも安心感がある。万が一のときに頼る存在。」

2時間耳を傾けた志村さん。考えさせられる一日となりました。

1カ月後-
村上総合病院に志村さんの姿はありました。

粟島研修で何を学んだのか。杉谷院長からレポートを課されていました。
6人が出したレポート。志村さんは現地で調べた島の医療体制の移り変わりを書きました。

そして、医師がいることの意味も―

■村上総合病院 杉谷想一院長
「実際に島に行っている研修医が直接話を聞いて・診て・薬をあげるというのは、受ける側の感じが全然違う。なんで医者になろうかと思ったかの原点がある、ああいう“無医村”には。」

■村上総合病院 志村優至さん
「戸惑ったというか、どうしたらいいのだろうと悩む部分は多かったが、役場の方や消防の方からの助言の中でやることができたので、それはすごく大きな経験になった。」

課題も見つけました。

■村上総合病院 志村優至さん
「ことが起きてからより、ことが起きる前から関わっておけるといい。患者にとって何がいいか、一緒に考えていくことは絶対に必要だと思う。」

医師として、どう地域医療に寄り添うか―
これからも考えていきたいといいます。
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