2025.05.15【特集】「早く新米を消費者に届けたい」農家の本音は?備蓄米放出後も価格高騰…試行錯誤のコメ作り【新潟】
コメの価格が高騰していることについて農家の本音は?
日本人の主食であるコメですが、価格高騰が続いています。農水省が発表した4月28日から5月4日までに全国のスーパーで販売されたコメの平均価格は、19円安い5kgあたり4214円、18週ぶりに値下がりしました。政府は、2025年3月から備蓄米の放出を続けていますが、その効果が出始めたとみています。
■マルセンの客
「19円くらい下がってもどうしようもない。(コメは)主食ですから、日本人の。」
三条市のスーパー『マルセン』。
5kg当たりのコメの価格は、安いもので約4300円で売られていました。
■マルセン 太田雅悠専務
「19円の仕入れ価格がたとえ下がっても、我々の販売価格が変わることはないので、数百円単位で減少してもらえることを願っている。」
コメの価格が高騰していることについて農家は-
■専業農家 関隆さん
「店頭価格が5kg4000円を超えるというのは異常すぎるほど高い、高すぎる。」
■専業農家 鈴木暁雄さん
「(価格が)高くなることは他の資材が高騰しているので、ある程度上がるのはしょうがないが急に上がりすぎている。」
■グリーンファーム清里 保坂一八さん
「みなさん高くてコメ離れが起きるんじゃないかなと、それが心配している。」
14日、備蓄米倉庫を視察した自民党の小野寺政調会長は、備蓄米の重要性は変わっていないと話す一方で…。
■自民党 小野寺五典政調会長
「(備蓄米を)必ず買い戻すということになれば、流通させるほうも一定の制約が出てしまいますので、今回は買い戻し条項を政府の方針として撤廃して頂ける。」
現在の運用では、国は集荷業者に売った備蓄米と同じ量のコメを【原則1年以内】に買い戻すことを条件にしています。
この条件について、専門家は-
■宇都宮大学農学部 松平尚也助教
「買い戻し条件によって、入札への参加を見送る業者も多かったと聞いている。1年以内に買い戻すということになれば、2026年3月~4月にかけて(備蓄米)31万tが減るということで価格が高止まりする背景の要因になる。」
魚沼市の専業農家・関隆さん(73)。
3月中旬、大きな成果をあげると言われる一粒万倍日にあわせてコメ作りをスタートしました。
■専業農家 関隆さん
「例年より少し早めに進めている。早く植えて、早く稲刈りをして、早く新米を消費者に届けたい。そういう気持ち。」
関さんは、90haの田んぼで魚沼産コシヒカリなどを栽培。農協を通さず直接、卸売業者と取り引きしています。2025年産の売り先はすでに決まっていますが、「高くても買いたい」という業者が後を絶たないと言います。
■専業農家 関隆さん
「県外の業者があまりにも高い値を提案してきたから『そんな高い値で買ってはダメ』と下げさせた。笑い話のようなことが現実には起きている。」
10年前と比べて、作付面積は1.5倍に増えました。今後、さらに面積を増やす予定で、新たな設備投資も検討しています。
コメ作りの現場では、大きな変化も・・・「主食用米への転換」です。
グリーンファーム清里の保坂一八社長(66)。近年、家畜のエサとなる飼料用米など主食用米以外のコメも栽培してきましたが、今年は大幅に減らしました。
■グリーンファーム清里 保坂一八社長
「ここに載っているのは、基本的に主食用米になるコメ。」
保坂さんは、作付面積の9割を主食用米にして、コメ不足を少しでも解消したいと話します。飼料用米は、主食用米に比べて価格が安いため国からの補助金が出ていましたが、その額も減少。主食用米の価格が上がっていることから、多くの農家で切り替えの動きが出てきています。
農水省の作付意向調査によると今年、全国で飼料用米の作付面積が1.4万ha減少した一方、主食用米は2.3万ha増加しています。
■グリーンファーム清里 保坂一八社長
「コメがこんなに高くなって儲かっただろと言われるけど、そうではない。9月・10月で売り先決まって契約してあるから。」
保坂さんは、卸売業者などと直接取引をしていますが、去年の秋の段階で2025年産の契約はほぼ終えていました。資材の高騰などもあり、農家の経営としては厳しい部分もありますが、コメの価格にはこんな思いも…。
■グリーンファーム清里 保坂一八社長
「この30年間ほとんど変わらない。経営環境が厳しかったのも事実。やっとそれでも少しは一息つけるかなという程度の状況。」
新潟市西蒲区。鈴木暁雄さん(44)の田んぼで行われていたのは『直播(ちょくは)』です。
通常、田んぼに育てた苗を植えるのが一般的ですが、直播は種もみを直接田んぼにまきます。
■専業農家 鈴木暁雄さん
「種もみに酸素剤をコーティングして、埋まっても酸素供給ができるので芽が出てくる。」
20haの田んぼのうち、今年は4ha分を直播で栽培しています。苗を育てるハウスが必要ないため、コスト削減につながるほか、生育ペースが遅いため作業時期をずらせるメリットがあるそうです。
■専業農家 鈴木暁雄さん
「資材高騰もあってなかなかハウスも建てられないので、直播にしてその分を浮かせよう。」
農協と卸売業者に出荷している鈴木さん。コメの価格高騰で収入も増えていると実感していますが、心境は複雑です。
■専業農家 鈴木暁雄さん
「ようやく良くなると思うけど、その反面、消費者が買えない問題になるとどうなのか、そこのジレンマはある。」
コメの価格高騰はいつまで続くのか-
政府は、3回目の入札から卸売業者同士の売買を可能としましたが、宇都宮大学農学部の助教・松平尚也さんは制度の見直しや、どの程度備蓄米が流通するかがポイントだと話します。
■宇都宮大学農学部 松平尚也助教
「実際、放出したのに出回っていない状況が1カ月くらい経っている。現状としては放出した分が出回って、政策的な効果を見てみる必要がある。3回目の放出からは、卸間の販売もできるようになる。3回目の10万tが出ると、もう少し広く出回って価格の下げ材料になる。」