2026.06.10【特集】絶滅から繁殖・・・本州初のトキ放鳥「トキに感謝」関係者の思い【新潟】
佐渡のトキの現状とこれまでの歩み
5月31日、本州で初めてトキが放鳥されました。佐渡で長年にわたり取り組んできた『トキの野生復帰プロジェクト』が新たなフェーズに入るなか、佐渡のトキの現状とこれまでの歩みを取材しました。
1981年、佐渡に生息していた最後の5羽が捕獲され、野生のトキは絶滅しました。
それから45年ー
トキの野生復帰を目指し様々な取り組みが続けられ、佐渡には現在、野生下に473羽のトキが生息していて、5年ほど前から500羽前後で安定的に推移しています。
環境省が進めるトキの野生復帰を目指す取り組み、目指すゴールは?
■環境省佐渡自然保護官事務所 北橋隆史首席自然保護官
「トキが普通の鳥になること。保護のために我々が何かする必要がなくなり、トキがどこにでも居る状況になるのが最終的な成功。」
目指すのは、全国どこにでもいる鳥になること。5月、それに向けて大きな一歩が踏み出されました。
石川県の能登地方ー
本州最後の生息地だった場所です。
佐渡以外では、初めてとなる放鳥。生息域を全国に広げる第一歩として石川県での定着と増殖を目指します。
■環境省佐渡自然保護官事務所 北橋隆史首席自然保護官
「能登で個体群が定着すれば、将来的には佐渡と能登、もしくは途中の地点を経由して遺伝的な交流ができるのを目指している。」
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獣医師として30年以上にわたり、トキの野生復帰を目指す取り組みに携わっていた金子良則さん。
石川県での放鳥について聞くとー
■獣医師 金子良則さん
「いまのところ心配している。まずはエサをとれるか、次に群れになれるか、群れになったら繁殖できるか。(Q.ハードルを佐渡でも経験した?)そうです、嫌というくらい。」
金子さんが経験した苦難の道のり・・・トキの繁殖の歴史を振り返ります。
野生下でトキが絶滅したのは、明治以降に乱獲が進んだことや田んぼで農薬が使われるようになり、エサをとりにくくなったことなどが原因と考えられています。1981年に野生のトキを捕獲したのは、自然繁殖をあきらめ『人工繁殖』を本格化させることが主な目的でした。このとき捕獲された5羽の性別は、メス4羽に対しオスは1羽だけ。メスはすぐに死んだことなどからミドリと名付けられた唯一のオスが、中国から提供されたトキとペアリングされるなどして人工繁殖に挑戦し続けました。
■獣医師 金子良則さん
「(中国から借りた)メスのフォンフォンとミドリが仲がよかったのでペアリングした。順調に巣を作って卵を産んだが、ミドリが急死した。残った卵5個は全部無精卵だった。(ミドリが死に)ガックリきて、そこからヒゲを伸ばした。ヒゲをそるのも面倒くさくなった。あの卵が有精卵でヒナが生まれたら、トキの歴史が変わったかもしれない。」
ミドリの死で、日本産トキの繁殖は不可能となりました。
その4年後となる1999年ー
中国からつがいのヨウヨウとヤンヤンが贈呈され、金子さんはその卵の人工孵化(ふか)に挑戦します。
■獣医師 金子良則さん
「これが最後のチャンスだと思った。卵を2個産んだときに1つが割れた。割れた卵の中身がもう1つの卵にくっついて、放っておけば(ヒナが)窒息してしまうのできれいに洗って孵卵器に入れて、生まれたのが『ユウユウ』だった。」
日本で初めて人工孵化に成功した瞬間でした。
■獣医師 金子良則さん
「(ユウユウが生まれて)青くなった。(Q.赤ちゃんが生まれてうれしい気持ちは?)とんでもない。どうやって育てればいいのか…死なせてしまったらダメなので。」
すべてが初体験、金子さんは細心の注意を払いユウユウ(オス)を育てました。
■獣医師 金子良則さん
「ユウユウは甘やかしすぎて、1年くらい自分でエサを食べなかった。手で食べさせないと。」
ユウユウは中国から提供されたメスとペアリングされ、26年の生涯で68羽のヒナを残し、人工孵化を軌道に乗せる立役者となりました。
■獣医師 金子良則さん
「(ユウユウは)立派です。」
2003年には、環境省などがトキを野生復帰させるためのビジョンを公表し、新たなフェーズへと向かいます。しかし、その半年後…日本産・最後のトキ『メスのキン』が死にました。高齢だったため繁殖にはあまり関わりませんでしたが、金子さんは思い出を語ります。
■獣医師 金子良則さん
「(キンは)ほとんど介護状態だった。ヒゲが気に入ってね、くちばしで(ヒゲを)つついていた。そるわけにいかないね。」
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2008年、飼育下での繁殖が実を結び野生復帰に向けた放鳥がスタート。当初はイタチの仲間・テンやカラスなどの外敵に襲われるなど様々な困難に直面しますが、2025年までに32回で530羽を放鳥し野生下でも繁殖が進むようになり、500羽前後が安定的に生息する現状につながりました。
トキが野生で生息していくには、農家の協力が不可欠です。
■長畝生産組合 大井克巳さん
「トキのエサ場はほぼ田んぼなので、トキが増えることでエサ場の環境を広げていくのが農家の役割だったが、いまのところはうまくいって日常的にみられる鳥になった。毎日見られると思う。」
トキは昆虫やドジョウなどを食べるため、田んぼは絶好のエサ場です。
佐渡市では2007年に『朱鷺と暮らす里づくり認証制度』を開始。農薬や化学肥料を通常の50%以上削減することなどを基準とする田んぼづくりを進めました。その結果、生き物が豊かな田んぼが増え、トキのエサ場となり増殖の原動力となっています。
■長畝生産組合 大井克巳さん
「自分の田んぼでトキを見かけると非常にうれしくなる。他の田んぼにトキがいると反対に悔しい。なんでトキはうちに来てくれないんだろうと思ったこともある。トキをきっかけに、佐渡は生物多様性農業を始めてコメも順調に売れていますので、トキに感謝している。」
田んぼに隣接する『江(え)』と呼ばれる水場を作ることで、田んぼが乾く時期には生き物がそこに避難します。このような田んぼで作られたコメは『朱鷺と暮らす里』というブランド米として販売されています。
■長畝生産組合 大井克巳さん
「認証米ができるまでは全部農協に出荷していた。認証米を作り始めてから、直接 東京や大阪のコメ販売店に販売するようになった。トキのおかげで全国的に佐渡のコメが認知されたのが、(田んぼづくりの)一番のモチベーション。」
石川県では、トキ放鳥の前に関係者が佐渡を訪れ、様々なノウハウを共有。順調にエサ場に適した田んぼ作りが進んでいると言います。
『トキの野生復帰プロジェクト』は新たなフェーズへ向かいます。