2025.04.10【特集|孤立する高齢者たち】超高齢社会が抱える現実…身寄りのない高齢者〝孤立の現場〟【新潟】
様々な高齢者の〝孤立〟の形
家族にかかわりを拒否されるなどして、身寄りがないという高齢者が増えています。孤立することでアパートが借りられない、入院ができないなど様々な事情を抱えています。今回、身寄りのない高齢者を支援する新潟市の男性を取材すると、『超高齢社会に潜む現実』が見えてきました。
村上慶乃介さん(47)。新潟市で葬儀会社を経営しながら、身寄りのない高齢者をサポートする事業を立ち上げました。
この日、初めて訪れたのは下越地方にある市営住宅です。
部屋は、足の踏み場もないほど物やゴミであふれていました。住んでいるのは、76歳の沼田さん(仮名)。両親を亡くしてから10年ほど、独り暮らしです。
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「部屋が汚いと聞いていてある程度予測はしていたが、なかなかだった。僕の場合はちょっと慣れっこなので、全然気にはしないけど。」
腎臓が悪く、週3回“人工透析”を受けている沼田さん。親族にかかわりを拒否されていて、『緊急時の連絡先が必要』と包括支援センターから村上さんに相談がありました。
■沼田さん(仮名・76)
「このままぱっと布団かけて寝る。電気毛布かかっているから。」
ゴミが溜まっていったのは、透析を始めてからだといいます。
■沼田さん(仮名・76)
「とにかく動きづらいというか、ちょっとすると胸が苦しくなって。透析特有の症状だけど、かなり重症なので。とにかく長い間立っていられない。」
透析のない日は部屋から出ることはほとんどなく、スマートフォンで動画などを見て過ごしています。食事は、ネットで注文するレトルト食品が中心です。
■沼田さん(仮名・76)
「やっぱ足が悪いから、月1回(スーパーに)行ければいい。台所はほとんど使わない。レンジで調理できるのが中心。台所も片付けないと使えないので。」
村上さんは緊急連絡先を引き受け、24時間見守りができるセンサーを設置することにしました。
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「全くお金はいただいていない。もう収入が限られてしまっていて、支出もそれでカツカツなので。自己管理ができないから、あの現状に陥ってしまっているというところが1番あって。それを自業自得だと言ってしまえば簡単だが、あの状況で結局誰も身元引受人がいない状況であったり、亡くなったときに誰も葬祭を執り行ってくれる人がいないという状況は、やっぱり問題なので。」
この日、訪れたのは新潟市内のアパート。
この部屋に1人で住んでいたのは、認知症を患う87歳の男性です。2024年12月に肺炎で亡くなりました。相続人である親族と連絡がつかず、部屋は1カ月以上手つかずの状態でした。
村上さんは、男性の成年後見人を務める社会福祉士から相談を受け火葬を請け負いましたが、残されたのは大量の遺品。これを整理するには、相続人の許可が必要です。
■社会福祉士 土田純一さん
「一応亡くなると、私の成年後見人としての役割は終了になる。ただ、ここは不動産屋さんの方にも早く撤去してくれって言われているので、やるしかないよねというところで村上さんと話をして進めていた。」
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「『死んだら火葬だけしてくれればいいよ』なんてよく言う人もいるが、こういう風に残っていくものがあるので、これの処分は大変というのは知ってほしいし、かなりこういう問題は多いと思います。」
警察庁のまとめでは、2024年1月から6月までに自宅で亡くなった独り暮らしの高齢者は、全国で約2万8000人。新潟でも400人以上が亡くなっています。
2024年の大晦日。77歳の中川さん(仮名)。
30代で夫と離婚し、兄とは絶縁。約35年、独り暮らしです。
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「腰とかどうですか。」
■中川さん(仮名・77)
「腰はちょっとね。時々、中腰で仕事するとくるから。」
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「今年はやっと、ちょっと落ち着いて年越しっていう感じですかね。」
■中川さん(仮名・77)
「おかげさまで、もうのんびり。本ばっかり読んで。」
保証人がいないという理由で、アパートを契約できずにいた中川さん。包括支援センターから相談を受けた村上さんが保証人になり、今のアパートを契約しました。
■中川さん(仮名・77)
「職を失って一生懸命職探したが、もう年齢で切られることが多くて。住まいもちょっと問題があって、先行きがもう見えないなって。そんな時にちょっと事故ってしまって。もし村上さんがいなかったら、首をつっていたかもしれない。こんなになってまで生きてたってしょうがないじゃんって。」
2人は、『死後事務委任契約』も結んでいます。中川さんが亡くなったとき、通夜から火葬・納骨・財産処分や遺品整理までを村上さんが請け負います。
■中川さん(仮名・77)
「(気持ちが)全然違いますね。ここで本当にバタッといったって、そしたら全部これを処分してくださるわけだから。こんなに安心なことはない。友達がいたにしてもそんなことまで頼めない。」
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「じゃあ、よいお年を。来年もまたよろしくお願いします。」
■中川さん(仮名・77)
「こちらこそ、よろしくお願いします。よいお年をですね。」
■中川さん(仮名・77)
「年末だけよ、こんなにして(カニを)食べられるの。高くてね。」
■庭山陽平記者
「年末はやっぱり普段とちょっと違う感じはありますか?」
■中川さん(仮名・77)
「全然。1日変わったって、何も変わらないじゃん。31日と1日に変化があるわけじゃないでしょ。」
■庭山陽平記者
「今年はどんな1年にしたいですか?」
■中川さん(仮名・77)
「どんな年…なるようにしかならない。そのうち人に迷惑かけるというか、世話にならないと生活できなくなる日が来るんだろうなと思っても、そんなの考えていてもしょうがないしさ。」
村上さんは3月、ゴミであふれていた沼田さんの部屋を訪ねました。
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「こんにちは、村上です。なんか前よりゴミが増えているような気がするんだけど大丈夫ですか。部屋ってこのままがいいんですか?やっぱりまずいなとは思ってる?ですよね。」
■沼田さん(仮名・76)
「足が…。」
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「うん悪くてね。そうだよね。」
■沼田さん(仮名・76)
「少しずつやろうと思ってるんだけど、この冬は寒かったので。」
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「片づけたいという思いはあるんですよね。それがわかっただけでもよかったです。じゃあ取っておきたいってわけじゃないよと。もう捨てるなら捨てていいよと。そういうことですよね。」
■孤立高齢者を支援 村上慶乃介さん(47)
「やっとスタート地点です。本人にちゃんとそういう意思があるっていう確認が取れたので、そうすれば多分、行政側も動けるだろうし、僕らとしてももちろん動きやすくなるので。あとはそれをどう支援するかかな。」
高齢者と村上さんを繋いでいた“包括支援センター”という機関。大きなものとして、各市町村が設置する高齢者の相談を総合的に受け付ける窓口となる『地域包括支援センター』があります。県内にも120カ所のセンターが設置されており、相談の内容に応じて行政と民間などの垣根を越えて、それぞれに必要なサービスにつなげています。
村上さんは、その受け皿の一環として高齢者の身元保証などの支援を行っています。ただ、現状こういった体制がとられている中でも、孤立死・孤独死は増えている現実があります。村上さんは、沼田さん(仮名)のようなケースは決してレアなケースではないと言います。高齢者の〝孤立〟には、非常に様々なケースがあるそうです。
様々な高齢者の〝孤立〟の形がある中で、村上さんは支援する側のマンパワー不足というものは間違いなくあると話します。行政が把握しきれない孤立高齢者も多くいるという中で、そうした〝声なき声を拾い上げる〟ための新しい仕組みづくりが必要です。